郵便学者・内藤陽介のブログ -20ページ目
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 バハレーン

 昨日は、本の宣伝ということもあって、ちょっと固めの中身でしたが、今日はちょっと軽めの話題にしましょう。今日(3日)はサッカーの試合がバハレーン(マスコミなんかじゃバーレーンと書くことのほうが多いかな)の首都、マナーマで行われるんだそうで、それにまつわる薀蓄ネタを一つ。


 バハレーンというのは、もともとは海を示すアラビア語のバハルの双数形(アラビア語には単数と3つ以上の複数のほかに、2つを意味する双数というのがある)で、この島国を取り巻く海と、地下水の二つの海を持つというところに由来しています。


 さて、この地域は、19世紀に英領となり、当初はインドの切手が持ち込まれて使われていました。下のカバー(封筒)は、その実例で、1905年11月、マナーマからインドのボンベイ宛の郵便物の一部です。当時は、バハレーンには郵便局が一つしかなかったんで、消印の地名も豪快にバハレーンとなっています。なお、バハレーンで2番目の郵便局がムハッラク(現在、空港のある地域)に開設されるのは、1946年6月1日のことでした。


 バハレーン1


 ちなみに、その昔、アラブ土侯国(現在のアラブ首長国連邦:UAEを構成している群小首長国)のひとつで、マナーマというのがありましたが、こっちは、アジュマーンの飛び地で、バハレーンの首都のマナーマとは(名前は一緒ですが)全く別の土地です。切手をかじったことのある人の中には、時々、両者を混同している人がいるみたいですが、お間違いのなきよう。

 

 『反米の世界史』予告編(1)

 6月16日、講談社現代新書の一冊として『反米の世界史:郵便学が切り込む』を上梓します。


 19世紀の末から20世紀を経て2005年の現在にいたるまで、アメリカは政治・経済・文化のあらゆる領域で世界的な影響力を拡大していきました。その必然的な副作用として、彼らは世界各地でさまざまなレベルの抵抗と直面し続けました。それが先鋭化して、直接的な武力衝突に至った例も少なくありません。その意味では、“アメリカの世紀”と呼ばれた20世紀を、“反米の世紀”と読み替えることも可能でしょう。


 そこで、僕は、アメリカと激しく対立した過去を持つ国や地域の視点から、アメリカが“世界の覇者”となっていく過程を、切手という小窓を通して眺めてみようと考え、今回の本を作りました。


 今回の本には、図版として、ハワイ、フィリピン、ソ連、チェコスロバキア、東ドイツ、日本、中国、タイ、韓国、北朝鮮、ポーランド、キューバ、ベトナム、イラン、イラク、アフガニスタン、フランスなど、世界各地の切手や郵便物が取り上げられています。このことからも、“アメリカ帝国主義”の歴史が、結果として、20世紀の世界史の相当部分と重なっていることがお分かりいただけるでしょう。


 これから何日間かかけて、そうした国や地域の切手・郵便物のいくつかをご紹介していきたいと思います。第1回目の今日は、米比戦争時のカバー(封筒 ↓)です。


米比戦争のカバー


 1898年、キューバの独立支援を大義名分として米西戦争が起こると、アメリカはキューバ同様、スペイン領であったフィリピンに派兵します。その際、エミリオ・アギナルドらフィリピンの独立運動家に対して、アメリカは、いったん、フィリピンの独立を口頭で約束します。しかし、アメリカはアギナルドらを裏切り、1898年末、スペインと講和条約を結んでフィリピンを領有してしまいました。


 当然、フィリピン市民は憤激。両者の対立は翌1899年に、米比戦争として爆発します。


 正規軍同士の戦争は、アメリカ側がアギナルド軍を圧倒し1899年11月にはアギナルドの革命政府は壊滅しました。しかし、その後も、1902年頃までゲリラによる抵抗は続き、アメリカを悩ませました。


 今回カバーは、そうしたゲリラ側の支配地域で差し出されたもので、ルソン島北部の南イロコスから1901年1月に差し出されたものです。封筒に押されている印には、アギナルドのフィリピン共和国を示す太陽と三ツ星が描かれ、周囲には「ゲリラ(ナポレオン戦争化のスペインで使われた、“国民的抵抗”という、まさに本来の意味です) No4」の文字が入っています。カバー左上のS.M.R.の書き込みは、“Servicio Militar Revolutionario(革命軍用)”の略。その右側に記されたUrgentisimo(緊急)の文字も生々しい雰囲気を伝えています。ジャングルの中、迫り来る米軍の攻撃を前に、このカバーをやり取りしていた人々の息遣いが伝わってくるようです。


 『反米の世界史』では、今回ご紹介したカバーのほか、1898年から1902年までのアメリカとフィリピンの関係についても、さまざまな切手やカバーを使いながら分析しています。詳細は、20日の刊行後、拙著をお読みいただけると幸いです。

 はじめまして

 はじめまして。郵便学者の内藤陽介です。


 切手っていうと、郵便に使うという以外に、どんなイメージをお持ちですか?


 子供の頃に集めたことがあるとか、根暗なオタク連中が訳のわからない屁理屈を並べ立てて悦に入っているといったようなイメージをお持ちの方が多いのでは。あるいは、この切手にはプレミアがつきそうだというようなことを考えた人もいるかも。


 でも、切手というモノを、もう少し違った角度から眺めてみると、そこには、多分、あなたがいままで気づかなかった発見がイロイロあるのです。


 そんな切手の面白さを、少しでも皆さんにご紹介していけたら・・・、と思って公開のブログを始めることにしました。


 あわせて、僕の仕事の進行状況や日々の雑感なども書いていきたいと思います。


 どうか、よろしくお付き合いください。

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