顔を汚さない工夫 | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 顔を汚さない工夫

 “皇室典範に関する有識者会議”が皇室典範改正問題に関して「女性・女系天皇は不可欠」との結論を出しました。この報告書どおりに皇室典範が改正されると、おそらく現在38歳の僕が生きている間に、日本にも女性天皇が誕生する可能性が大いに出てきました。


 まぁ、そのときになって、切手や郵便が現在のようなかたちで生き残っているかどうか(生き残っていて欲しいのですが)、ちょっと不透明なところもありますが、仮に、女性天皇が誕生した場合、僕としてはやはり“女王”の肖像を描いた切手を発行して欲しいものだと思います。


 そもそも、1840年にイギリスで発行された世界最初の切手はヴィクトリア女王の肖像だったわけですし、“女王様”の切手は各国からさまざまなものが発行されています。現在、東京・目白の<切手の博物館 >で開催中の企画展示「世界の女王様」が実現できたのも、“女王”を戴いたことのある国が少なからずあり、そうした国がいろいろな切手を発行しているからにほかなりません。


 さて、そうした“女王様”切手の中から、今日は、こんな1枚を取り上げてみました。


 スペイン1850年


 このカバー(封筒)は、1850年にスペインで使われたもので、当時の国王イザベル2世の肖像を描く切手が貼られています。今回は、切手そのものよりも、切手に押されている消印にご注目ください。中央が空白になっており、女王の肖像を(できるだけ)汚さない工夫がされているのがお分かりかと思います。


 郵便物の料が現在ほど多くはなかった19世紀には、郵便に使われた切手の再使用を防ぐための“抹消印”と、郵便物を引き受けた場所や日時を示す“証示印”を別個に押す(このカバーの場合、不鮮明ではありますが、切手の右側に赤い証示印が押されています)ということがしばしば行われていました。今回のケースでは、そうした二つの消印の特性を生かして、抹消印のほうを工夫して、切手の肖像をできるだけ汚さないようにしたわけで、同様の事例は、イタリア統一以前のシチリア王国の切手・消印にも見られます。


 ときどき、切手には消印が押されるから皇族の肖像を入れるのはけしからんという主張を声高に叫ぶ人がいますが、それなら、肖像を汚さないような消印を工夫して考案すればよいのであって、そうした努力を何もしないまま、消印云々といっているのは、本末転倒でしかないように思うのですが…。


 なお、皇室と切手をめぐって、いままで、日本ではいかに不思議な議論が展開されてきたかという点については、拙著『皇室切手 』もあわせてご参照いただけると幸いです。