アラブの都市の物語:マラケシュ | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 アラブの都市の物語:マラケシュ

 昨日のブログでは、NHKラジオ中国語のテキスト(僕は「外国切手の中の中国」という読物を連載しています)の最新号が発売になったことを書きましたが、NHKの語学テキストは毎月18日に一斉発売となります。したがって、隔月刊で今月が刊行の月に当たっているアラビア語のテキストも、同時に発売となり、掲載誌が自宅に送られてきました。以前の記事にも書きましたが、アラビア語のテキストでは、僕は「切手に見るアラブの都市の物語」という連載を持っています。で、その最新号はマラケシュ(モロッコ)。たとえば、こんな切手を使って、マラケシュの歴史をご紹介しています。

マラケシュ


 この切手は独立後まだ日も浅い1960年にモロッコが発行したマラケシュ創建900年の記念切手です。


 通常の歴史書などでは、ムラービト朝の君主ユースフ・イブン・ターシュフィーンがマラケシュの建設を始めたのは西暦1071年のことと記されていますが、この切手の場合は、本格的な都市建設の前にユースフがこの地にたどり着いたことから起算して、1060年を基準に900年としたのでしょう。ちなみに、ヒジュラ暦(イスラム暦)の年号では454~1379年となっており、年号のカウントは900年を超えています。


 現在のモロッコの地名はマラケシュのなまえが訛ったものですが、このマラケシュという言葉は、ベルベル語の“マロウクシュ(早く歩け)”に由来するといわれています。これは、マラケシュの本格的な都市建設が始まる以前は、この地で略奪行為が横行していたため、早く通り過ぎたほうが良い土地と人々が読んでいたためだそうです。


 その後、ムラービト朝をはじめ、モロッコ諸王朝の首都となったマラケシュは都市のインフラが整備され、サハラ交易の拠点として繁栄。往時をしのばせる建造物が数多く残る古都として、1985年には世界遺産にも登録され、世界的な観光地として、連日、観光客でにぎわっています。


 切手の中央の尖塔はマラケシュのランドマーク、クトゥビーヤ・モスクのミナレットで、周囲の椰子の木と山脈がなんともいえないエキゾチックな雰囲気をかもし出しています。この時期の切手は、まだ旧宗主国のフランスで作られていたため、いかにもフランス風の瀟洒な凹版印刷とデザインがよくマッチしており、とても綺麗な切手に仕上がっていて、僕の個人的な好みとしては、結構お気に入りの1枚です。


 NHKのアラビア語テキストでは、どうしても図版がモノクロなので、この切手の美しさが上手く伝わりませんので、ブログで取り上げてみました。なお、マラケシュの歴史やそれにまつわる切手について、より詳しいことがお知りになりたい方は、是非、『NHKアラビア語会話』の12・1月号の僕のコラム「切手に見るアラブの都市の物語」をご一読いただけると幸いです。