パンダとコアラ | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 パンダとコアラ

 NHKのラジオ中国語のテキストの最新号が発売になりました。以前にも書きましたが、このテキストの読物ページで、僕は「外国切手のかなの中国」と題する連載を持っています。で、今回は↓の切手を題材に最近の豪中関係について説明しています。


 オーストラリア


 この切手は、今から10年前の1995年に豪中両国がおなじ図案で共同発行したもので、両国の友好親善を深める意図が込められているのは誰の目にも明らかです。


 経済成長著しい中国と資源大国オーストラリアとの関係は、近年、急速に緊密になっています。経済成長のために必要な資源を確保したい中国側と、新たな“お得意さん”を大事にしたいオーストラリア側の思惑が一致しているためです。


 それだけなら、取り立てて言うことはないのですが、そうした経済的な関係をてこに、中国がオーストラリアを政治的にも取り込もうとしている点は見逃せません。


 中国の対豪政策の究極の目標は、アメリカに対抗するため、ヨーロッパにおけるフランスのように、オーストラリアをアジア・太平洋地域においてアメリカに対してNOといえる国に育てることにあります。また、国際的な非難を浴びている中国国内の人権抑圧に関して、中国側の主張を擁護してくれる“味方”としてオーストラリアを取り込むことができれば、これまた大きな得点になります。


 現時点では、中国の期待するように、オーストラリアがアメリカに対してNOといえる国になっているわけではありませんが、それでも、現在のオーストラリア政府は中国の国内事情に相当の“配慮”を示し、2003年に胡錦涛がオーストラリアを訪問して議会で演説した際、中国の人権抑圧に批判的な議員が議場に入ることを許可しないという、かなり乱暴なことをしています。


 こうした対応について、当然、中国側は「わが国の考えがオーストラリアに浸透する良い兆候だ」と歓迎していますが、オーストラリア国内では批判も少なくありません。ただ、現実には、経済的な実利の前に、オーストラリア政府の対中姿勢を批判する声は、同国内では必ずしも目立ったものとはなっていないようですが…。


 今回ご紹介している切手は、そうした現在の豪中関係の出発点に当たる時期に発行されたもので、『ラジオ中国語』の連載「外国切手の中の中国」では、その辺の事情を詳しく説明しています。よろしかったら、ご一読いただけると幸いです。