悪魔の手 | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 悪魔の手

 1980年に始まるイラン・イラク戦争の本質は、前年(1979年)のイスラム革命でイラン国内が混乱している隙に乗じて、国境問題を有利に解決しようとしたイラクのサダム・フセイン政権が起こした侵略戦争ですが、当時の国際社会は、革命の波及を恐れて、とにかくイランを勝たせないように、イラクを支援していました。

 こうした国際社会に対して強い不信感を抱いていたイランが、1983年の国連の日に発行した切手が↓の1枚です。


 五大国という悪魔


 切手の中央には、大きく、悪魔の腕が描かれています。


 この腕はニューヨークの国連ビル(国連のマークもついている)から伸びており、“(安保理常任理事国の持っている)拒否権”を意味するVETOの文字が大書されています。また、5本の指のそれぞれにはUS、UKなど5大国の国号が入っています。悪魔の手は地球の上にのびており、5大国による世界支配の野望というイメージが表現されています。


 そして、そうした悪魔の腕を、柄の部分に緑色でイランの国章を記した正義の剣が断ち切る、というのがこの切手のデザインのポイントです。


 イスラム革命をつぶすために侵略者イラクを一致して支援している国際社会に対する強い不満がストレートに表現された1枚ですが、これほどまでに直截な国連批判の切手というのは、他に例がないのではないかと思います。


 さて、今週木曜日・10日まで東京・白金の明治学院大学 キャンパス内のインブリー館にて開催中の「反米の世界史:切手が語るアメリカ拡大の歴史」展(10:00~16:30 入場無料 詳細はトップのポスター画像をクリックしてください)では、今日ご紹介した切手をはじめ、今年6月に上梓した拙著『反米の世界史 』で使った図版の実物を中心に展示しています。


 会期も残り少なくなりました。ぜひ、遊びに来ていただけると幸いです。