ベトナムの女性兵士 | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 ベトナムの女性兵士

 現在、東京・白金の明治学院大学 キャンパス内のインブリー館にて「反米の世界史:切手が語るアメリカ拡大の歴史」展 (10:00~16:30 10日まで。本日・6日は13:30から展示解説あり。入場無料)を開催していますが、会場にお越しいただいた方から、今まで自分では気づかなかった興味深いご指摘をいただきました。ちょっとご紹介してみたいと思います。


 まずは、この切手をご覧ください。


 米兵を連行する女性兵士


 この切手は、ベトナム戦争中の1967年にベトナム民主共和国(北ベトナム)が発行した米軍機撃墜2000機記念の切手です。


 以前の記事 でもご紹介しましたが、当時の北ベトナムでは、米軍機の撃墜数が節目に達すると、そのたびに、強烈なデザインの記念切手を発行してきました。その最初のものが、1965年8月の500機撃墜記念の切手で、1973年11月に4181機撃墜記念の切手が発行されて“打ち止め”になるまで、1966年4月には1000機撃墜、同10月には1500機撃墜、1967年6月には2000機撃墜、同11月には2500機撃墜、1968年6月には3000機撃墜、1972年6月には3500機撃墜、同10月には4000機撃墜、といったペースで記念切手が発行されています。


 今回ご紹介している切手は、有名な報道写真をもとにデザインが作られたものですが、ある参観者の方から、女性兵士が自分の身体よりもはるかに大きな米兵を連行しているという点に注目すると面白いよ、というお話をいただきました。


 その方によると、ベトナム戦争では女性兵士が非常に重要な役割を果たしていましたが、そのことは、今回の反米展に展示されている切手を見てもよくわかる、というのです。たしかに、そういわれてみると、この切手を含め、切手に描かれている戦闘場面では女性兵士の姿が非常に目立ちます。


 日本人のイメージでは、戦争と女性というと、軍需工場で働く姿か、あるいは、一昨日の記事 (厳密に言うと、この切手は満州国が発行しようとしたものですが)に見られるように、子供を抱えて出征兵士を見送るもの、というイメージが非常に強いのですが、ベトナム人のイメージはこれとは全く違っているわけです。


 このように、戦時に発行されている切手において、女性がどのように描かれているかを国ごとに眺めてみると、その国の“女性”のあり方がみえてくるのではないか・・・というのが、会場で僕に話しかけてくれた方のご指摘でした。以前、アメリカ切手に描かれた女性のイメージについて短い文章を書いたことがありましたので、そうした仕事と組み合わせて、このアイディアを膨らませていけば、それこそ、新書1冊分くらいのネタには困らなさそうです。


 このように、参観者の方々とお話して新たな刺激を受けると、展覧会、特に、自分の個展をやってみてよかったとつくづく思います。


 さて、くどいようですが、10日まで東京・白金の明治学院大学 キャンパス内のインブリー館にて開催中の「反米の世界史:切手が語るアメリカ拡大の歴史」展(10:00~16:30 入場無料 詳細はトップのポスター画像をクリックしてください)では、今日ご紹介した切手をはじめ、今年6月に上梓した拙著『反米の世界史 』で使った図版の実物を中心に展示しています。本日(6日)は13:30より展示解説も行いますので、みなさん、遊びに来ていただけると幸いです。


 ◆東京・目白の<切手の博物館 >で開催中の「皇室切手展」は、いよいよ、本日(6日)が最終日です。会場では、戦前の皇室のご婚儀に関連する切手の名品を多数、展示しています。めったに見られない名品が目白押しですので、ぜひ、お見逃しなきよう!