歴史的考証? | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 歴史的考証?

 東京・目白の<切手の博物館 >3階で開催中の「皇室切手展」も、いよいよ、明日(6日)までとなりました。今日(5日)は、夕方17:15から拙著『皇室切手 』刊行記念のトークも行いますので、ぜひとも、遊びに来てください。


 さて、今回の皇室切手展は、明治神宮と逓信総合博物館、それに多くの収集家の方々のご協力で実現したもので、ぜひともご覧いただきたい名品が目白押し(別に駄洒落ではありません。念のため)ですが、いわゆる“新高額切手”関連の資料は、10月30日の記事 でご紹介した“松喰鶴”の未裁断シートと並んで、今回の展示の両横綱といえます。


 新高額切手というのは、関東大震災後の1924年に発行された神功皇后を描く5円と10円の切手(↓はその5円切手)のことです。


 新高額切手


 神功皇后を描く5円・10円の切手は1908年にキヨッソーネの原画を元にしたデザインの切手(旧高額切手)が発行されていましたが、この切手の原版が関東大震災に寄って焼失したため、日本人デザイナーの吉田豊によって新たな原図がつくられ、それを元に森本茂雄が原版を彫刻しました。


 その際、顔つきが日本風(キヨッソーネの肖像は、なんとなく、西洋人の雰囲気が漂っていた)に改められたほか、髪型も変更されました。さらに、肖像の周囲には、古墳の壁画などに見られる直弧紋と呼ばれる文様も配されています。


 こうした一連の変更を、当時の逓信省は「考古学上の交渉を加えた」と説明していますが、そもそも、神功皇后の物語そのものが(仮に何がしかのモデルがあったにせよ)基本的には神話・伝説の域を出ないものですから、こうした苦しい説明をする必要があったのかどうか、現代の我々の感覚では大いに疑問です。


 さて、東京・目白の<切手の博物館 >3階で開催中の「皇室切手展」では、その新高額切手の試作品(担当者がチェックしたことを示す印がベタベタ押されています)のほか、プラハで開催された国際切手展に際して贈呈用として作られた小型シート2点(5円・10円各1点)が展示されています。いずれも、現物が揃って展示されるのは、今回が初めてのことです。


 会期は明日(6日)までですので、ぜひとも皆様、お見逃しなきよう。


 ◆ 10日まで東京・白金の明治学院大学 キャンパス内のインブリー館にて「反米の世界史:切手が語るアメリカ拡大の歴史」展 (10:00~16:30 5・6の両日には13:30から展示解説あり。入場無料)を開催中です。会場では、今年6月に上梓した拙著『反米の世界史 』で使った図版の実物を中心に展示しています。本日(5日)は13:30より展示解説も行いますので、こちらにもお運びいただけると幸いです。