裕仁親王の立太子礼 | 郵便学者・内藤陽介のブログ

 裕仁親王の立太子礼

 今日(11月3日)は、旧明治節(明治天皇の誕生日)です。


 謹厳実直で“現人神”を演じきった明治天皇が“理想の君主”の一人とされていたのに対して、病弱でリベラルな考え方の持ち主であった大正天皇(なにせ、「天長節のセレモニーを8月末の暑い時期に行うのは国民に気の毒だから、2ヶ月後らせて10月末に行うようにしよう」なんていいだすお方ですから…)の評判は、国家指導層の一部では芳しいものではありませんでした。このため、息子の裕仁親王(後の昭和天皇)に、「父親のようになってもらっては困る、お祖父さんのように立派な人に育って欲しい」という期待をかける元老・高官が少なからずいたことは広く知られています。


 裕仁親王が皇太子であることを正式に内外に宣明する立太子礼が、明治天皇の誕生日である11月3日という日付を選んで行われたのも、そうした空気とは無関係ではないように思われます。


 さて、裕仁親王の立太子礼というと、下の切手が有名です。


 かんむり


 切手の題材は、空頂黒幘とよばれる冠。儀式の際、皇太子がかぶるもので、柳葉という台の上に載せられています。スッキリしたデザインとブルーの凹版印刷がよくマッチしていて、印刷物としての出来栄えはなかなかのものです。なお、額面の“拾銭”の両脇に、蝶の紋様が描かれていることから、昆虫切手の間でも人気のある1枚です。


 なお、この切手の発行枚数は8万6000枚しかなかったため、発行当初から、収集家の間ではプレミアつきで取引されており、日本の記念切手の中では、特に高価なものの一つとなっています。カタログの評価では、標準的な状態のもので1枚18万円ですが、実際にはもっと安く買えるはずです。また、残存数は決して少なくないので、お金さえあれば、入手はそれほど難しくありません。


 さて、この切手を含め、裕仁親王の立太子礼と切手については、拙著 『皇室切手 』でもいろいろと説明していますので、ご興味をお持ちの方は、是非、ご一読いただけると幸いです。


 また、東京・目白の<切手の博物館 >では、6日(日)まで「皇室切手展」を開催中です。会場では、戦前の皇室のご婚儀に関連する切手の名品を多数、展示しています。11月5日の17:15からは『皇室切手 』刊行記念のトークを行う予定ですので、是非、遊びに来てください。


 ◆ 10日まで東京・白金の明治学院大学 キャンパス内のインブリー館にて「反米の世界史:切手が語るアメリカ拡大の歴史」展 (10:00~16:30 3・5・6の各日には13:30から展示解説あり。入場無料)を開催中です。会場では、今年6月に上梓した拙著『反米の世界史 』で使った図版の実物を中心に展示しています。本日(3日)は13:30より展示解説も行いますので、こちらにもお運びいただけると幸いです。